最近、種類の異なる複数の信号を同時にキャプチャしてPCに転送して、PCアプリ上で信号を可視化する案件が増えて来ています。入力する信号のチャンネル数や帯域が増えれば増えるほど、それに比例するようにデータ量も増え、PCへの転送方式もより高速なものが望まれます。その転送レートはDT10のハードウェアであるDynamic Tracerの転送レートを優に超えています。もしかしたら、図らずとも、次世代Dynamic Tracerへ向けての検討は進んでいる!?ということになるのかもしれません。そこで、このシリーズでは、このような次世代Dynamic Tracerに繋がる技術的な情報を少しずつ公開できる範囲で発信していきたいと考えています。よくお客様から「スペックアップしたDynamic Tracerの新しいハードはいつ出るのか」と聞かれますが、記事の内容から察していただけると幸甚です。
最近よく使用するFPGAボード
弊社が関わった案件では、5,6年前まではちょっとした信号のキャプチャであればマイコンやDSPで十分対応可能で、PCへの転送もUSB2.0で十分間に合っていました。しかしながら、ここ最近はキャプチャする信号やチャンネル数が増え、必要なI/Oの絶対数が増えるのもさることながら、信号のサンプリングレートも上げる必要があるためFPGAが必須になるケースが増えています。当然PCへのデータの転送もUSB3.0です。このため、FPGAとUSB3.0のコントローラの載ったFPGA基板を使う機会が増えています。図1は、最近の案件でよく使用しているPrime System社のFPGAのAX-Card7ボードです。
図1: Prime System社 AX-Card7
基本的には、信号キャプチャに必要な拡張基板を作成しAX-Card7ボードを接続して使用するようなイメージです(図2)。このボードで使用できるI/Oの数は152本となります。
図2: 拡張基板イメージ
現行Dynamic Tracerの考察
AX-Card7にはザイリンクス社のArtix7シリーズのFPGAが搭載されています。Prime System社のAX-Card7のスペック表には消費電流610mA/5Vとありますので、USB3.0規格ではバスパワーでも動作可能なレベルです。これに比べると現行のDynamic Tracerでは消費電流は1.5A前後になりますので、なんとも時代を感じてしまいます。現行のDynamic Tracerの構成イメージは図3のようになっています。
図3: Dynamic Tracer基板イメージ
この中でも特にDSPの消費電流が大きく全体の消費電流を押し上げてしまっています。これに伴い、電源回路もそこそこ大きくなりさらに内部の発熱量も考えると現行の筐体の材質とサイズ感に帰着します。とは言え、それぞれのチップのする仕事を考えると、手前味噌ではありますが適材適所な作りではあります。10年近くも内部の構成を変えずに製品を提供できている理由の一つかもしれません。しかしながら、時代は変わって来ていますので、次世代Dynamic Tracerを考えるときには、低消費電力のデバイスを中心に考えたいものです。
次世代Dynamic Tracerの理想形
現在出回っているFPGAのサイズ感とスペックを考えると、次世代型はサイズ感的には、現行モデルの約1/4程度にできるのではと考えがよぎります(図4)。また、仕様的には現行仕様を踏襲しつつ、他社ツールもそうであるようにUSB 3.0対応、バスパワー給電は必須になるはずです。
図4: 次世代型のサイズ感
実際のところ、次世代型についてはまだまだ検討段階ですが、少しずつ基礎検討で分かったスペック感をレポートできればと考えています。次回にご期待ください。
最後に
今回のシリーズでは「探究」という言葉を使っていますが、別の「探求」という言葉もあります。
前者の「探究」は、goo国語辞書によれば、
[名](スル)物事の意義・本質などをさぐって見きわめようとすること。「真理の探究」「生命の神秘を探究する」
出典元: 「探究」- goo国語辞書
後者の「探求」の方は、同辞書によれば、
[名](スル)あるものを得ようとしてさがし求めること。さがし出して手に入れようとすること。「幸福の探求」「貴重本の所在を探求する」
出典元: 「探求」- goo国語辞書
と書かれています。一見、「次世代型」を目指すのだから、どちらも当てはまってしまう気もしますが、やはり我々が作っていくものであり、より良いツールを追求していくという意味から「探究」にしました。お客様がよいツールを「探求」しているときに、一番に見つかるツールのベンダーでありたいものです。