こんにちは!

2025年7月11日(金)に秋葉原UDXで開催された弊社主催の「ユーザーズカンファレンス2025」で発表いただいたユーザー様の事例をダイジェストでご紹介します!

ご登壇いただいたのは、ECUの回路が読めるソフトウェアエンジニアとしてご活躍中の 株式会社アドヴィックス 制御・ソフト開発部 第4室 川口 遥介 氏です。

事例発表を行う川口氏

同社は、車両用ブレーキシステムの開発・製造・販売を中核事業とし、回生強調ブレーキ、電子パーキングブレーキシステム、ディスクブレーキといったブレーキシステム全体を手掛ける世界有数のサプライヤーであり、社名のとおり、ブレーキ分野を先進技術で牽引する存在です。

お客様の安全性はもちろん、そのためのリアルタイム性が求められるブレーキシステムの開発要件に対して、どのようにDT+Traceを活用し、検証をしたのか?

今回発表していただいた事例のテーマは、 車載ECU(電子制御ユニット)におけるタスク処理のリアルタイム計測を実現した革新的な活用事例です。

 

リアルタイム計測における従来の課題

  • 高分解能なRAMモニタリングの困難さ
    • 従来のデバッグツールでは、リアルタイム制御に必要な高精度なRAMモニタリングが難しく、特にOSが動作するRAM上のタスクの実行時間や負荷を正確に把握することが困難 また、見たいタスクを見るために、手作業の手間が掛かる
  • シリアル通信ポートの制約
    • システムの機能が増え、計測のためにシリアルポート(UART)が不足する
    • 使用するポートもECU毎に異なるため、ドライバのバリエーションが増えてしまい、取り回しが悪い
  • 実行時間計測の精度とオーバーヘッドによる悪影響
    • お客様の安全性に直結するブレーキソフトウェアでは、関数やタスクの実行時間をマイクロ秒(100µs)からナノ秒(10ns)オーダーで正確に計測する必要があるが、 GPIOやシリアル通信を用いた計測では、100µs程度の大きなオーバーヘッドが発生し、リリース版ソフトウェアでの検証を阻害してしまう
 

アドヴィックス社の独自の工夫でアプローチ

これらの課題に対し、RAMモニタツールとDT+Traceの「良いとこ取り」の独自の工夫を凝らしたアプローチで解決を図っています。もちろん、弊社も実現のための技術的サポートをさせてもらいました!

  • 「ファイル書き出し」方式を活用し、テストポイントによるトレースデータをターゲットECUのRAMに保存する
    • 通常、トレースデータをファイル化するための仕組みを利用して、トレースデータをECUのメモリに保存する
    • ECUの性能に影響を与えず、約10ナノ秒という極めて低いオーバーヘッドで高分解能なトレース取得を可能とする
    • 制限のあるRAMサイズを考慮して、リングバッファを採用
  • ECUにある既存のJTAGデバッグポート経由で、RAM内のデータをPCに吸い上げる
    • 同社で所有していたRAMモニタツールを使うことで、ハードウェア依存がなく、あらゆる仕向けのECUに対する計測の共通化を実現
    • RAMモニタツールにより、トレースデータをCSVファイルとして生成
  • DT+Traceアプリにインポートできるデータフォーマットに変換し、データ解析する
    • 同社が内製した独自の変換ツールで、CSVファイルをDT+Trace用データフォーマットファイルに変換
    • データフォーマットの変換処理のカスタマイズは、弊社がサポート
    • DT+Traceアプリを使って、関数コールタイミングの見える化を実施
      →特定の関数の実行時間やいつ、何回コールされているかを確認できる
 

ブレーキシステムに不可欠なリアルタイム検証を実現

DT+Traceの導入による主なメリットは、「リリース版」のソフトウェアでも詳細かつ正確な実行時間解析が可能になった点と考えられます。
これにより、安全に直結する重要なタスクが時間通りに実行されているかを確実に確認でき、お客様の安全を確保する上で、不可欠な検証を行えるようになったと言えます。

 

参加者の共感と気づき

同社の事例発表に対して、多くのカンファレンス参加者から開発現場における共感、および実践的な解決アプローチへの高い評価をいただきました!

「組込み系におけるDT+Traceの活用について同様な課題を持っており、良い方法を聞くことができた。」

「解析時のオーバーヘッドの問題が弊社でも感じていたため、RAM上にデータを保存することで、nsオーダーのサンプリングができて、オーバーヘッドを削減している点は素晴らしい。」

「デバッグ用のポートを増やせないという課題を、内製ツールとDT+を組み合わせて解決したアプローチが新鮮だった。」

「車載など人命に関わるデバイスやソフトウェアの開発において品質が強く注目されている中、この取り組みは興味深い。」

 

まとめ

今回発表いただいた独自の計測手法は、数年前から実現していたものであり、当時の前任者が開発した手法が共有され、引き継がれ、開発現場に浸透してきたものになります。
これは「多様な個の知恵と技術を結集させ、革新的価値を創る」という、アドヴィックス社のめざす姿を体現したものでもあり、素晴らしい成果発表でした。そのお手伝いができた弊社もたいへん嬉しく思います!

【ブログ内で紹介した講演が動画で見られる!】

DT+ユーザー活用事例動画
車載ECUにおける動的テストツールの使用例

本動画では、アドヴィックス社がブレーキ制御ECUに対して挑戦した、DT+とRAMモニタツールの融合によるリアルタイム検証の革新的アプローチをご紹介します。
車載向けソフトウェア開発における“現場発”のリアルな工夫と知見が詰まった事例です。