3月20日に東京ビッグサイトで開催された「JaSST’26 Tokyo」。祝日開催にもかかわらず、会場は多くのエンジニアで埋まっており、テストや品質に対する現場の関心の高さを改めて実感する一日となりました。

私たちハートランド・データも本イベントに参加し、会場では「実機テストのCI/CD統合」と「AI生成コードの検証」という2つのテーマで登壇しました。本記事では、開発スピードと品質の両立に悩む皆様に向けて、当日お話しした開発現場で活かせるヒントをレポート形式でお伝えします。

 

実機テストの手動操作をゼロに!組込みCI/CD統合の秘訣

最初のセッションで焦点を当てたのは、組込み開発におけるCI/CDの現状と、実機テストをどのように自動化パイプラインへ組み込んでいくべきかという点です。

近年、製品機能の高度化や開発スピードの加速に伴い、テスト対象は増え続けています。その一方で、人手に依存したテストでは時間やコストの負担が大きく、担当者ごとの差異、いわゆる「属人化」に悩む現場も少なくありません。

ソースコード管理やビルドといったソフトウェア領域の自動化は組込み開発でも浸透してきましたが、Web開発のように「最後のテスト」まで24時間365日の完全自動化ができているケースはまだ稀です。依然として実機へのデプロイや操作に人手を介しているこの現状こそが、リリースリードタイムを停滞させる大きな要因となっています。

 

DockerとJenkinsで環境依存を排除するビルド基盤

こうした課題を解決する基盤として紹介されたのが、DockerとJenkinsの活用です。

組込み開発のプロジェクトは保守期間が長く、プロジェクトごとに異なるツール環境を維持し続ける必要がありますが、PCの寿命や個体差といった制約は避けられません。そこで、Dockerを用いて実行環境をイメージ化して管理することで、ハードウェアの状態に左右されず、常に同一のビルド環境をいつでも再現できるようになります。

さらに、これをJenkinsと連携させれば、ビルド環境用のDockerイメージをジョブごとに指定して起動することも可能です。この構成の大きな強みは、複数のDockerイメージを同時に立ち上げ、並行してビルドを実行できる点にあります。 たとえば共通のファイルに修正が入った際、10個・20個といった多数の環境を一斉に稼働させ、バージョン違いのコンパイラで同時にビルドを走らせることも可能です。こうした仕組みの導入により、現場の要求に応える効率的な開発体制が整います。

こうしてビルド環境の自動化が整ったことで、次はそれをいかに実機検証へと繋げるかが重要になります。

 

AUTOmealを核に物理操作を自動化パイプラインへ

この自動化のフローを実機検証まで拡張し、組込み特有の「物理の壁」を突破する具体的なソリューションとして紹介したのが、「テスト自動化プラットフォームAUTOmeal」です。

AUTOmealは、ロジック信号やアナログ信号などの信号入出力や、シリアル通信など、組込み機器特有の多彩なインターフェースを介して、テスト対象機器を直接制御・計測できるプラットフォームです。人が行うボタン操作などを肩代わりし、シナリオに沿った自動テストと合否判定を実現します。

AUTOmealの詳細はこちら →

講演で行ったデモでは、GitへのPushを起点にJenkinsパイプラインが自動実行される一連の流れを披露しました。Dockerによるビルドや静的解析を経て、最終工程でAUTOmealによる実機検証が自動で起動する。この「最後のテスト」まで自動化した一気通貫のフローにより、組込み開発における継続的テスト(CT)を、現場で動く仕組みとして実現しました。

ここで重要となるのが、AUTOmealを「ハブ」として外部ソリューションと連携させる拡張性です。たとえば、ロボットアームと連携して人の指の代わりに正確なボタン操作を再現したり、カメラによる画像判定で、液晶やLEDの状態を自動チェックしたりすることで、これまで物理操作がネックとなり自動化を諦めていた工程も、テストの流れに組み込むことができます。

エラーが発生した際も、詳細な波形データや通信ログから異常箇所を迅速に特定できるため、エンジニアは繰り返し作業から解放され、本質的な業務である「品質改善の判断」に注力できる環境が整います。

 

一気通貫の自動化が開発スピードと品質を両立させる

セッションの終盤では、実機テストまで含めた自動化(CT)が現場にもたらす「3つの価値」が提示されました。

実機テストを自動化し、「物理の壁」を突破することで、ビルドから検証までがようやく一本の線で繋がる。リリースの速さと品質の安定を両立できる開発体制が現実味を帯びてくるような、そんな手応えを感じる内容でした。

「ビルドまでは自動化できているが、結局最後は人の手で実機を動かしている」という現場のリアルな悩みに対し、無人化への具体的なヒントが得られた締めくくりとなりました。

 

AI生成コードの限界を見極める「判断スキル」を再定義

続いては、もう一方の登壇テーマである「AI生成コードの検証」にフォーカスした、ふたつ目のセッションについてご紹介します。

昨今、低レイヤーの組込み開発でもAI活用が急速に進展しており、テストスクリプトの生成からログ解析までAIの守備範囲は広がっています。

もっとも、AIが真価を発揮できるのは、あくまで「ソフトウェアだけで完結する領域」に限られます。ロジックの正しさを検証し、自らテストを書いて修正を繰り返すといったサイクルがデジタル上で完結するなら、AIは自己完結して精度を高めることができます。

その一方で、組込み開発の本質である「物理現象」が絡む領域では、AIは自己完結することができません。AIはコードから挙動を「想像」することはできても、実機を用いてその正しさを「実証」することは不可能だからです。

 

AIが踏み込めない「物理的限界」と「責任の限界」

では、AIが踏み込めない領域には、具体的にどのような壁が立ちふさがっているのでしょうか。セッションでは、AIの決定的な限界が2つの視点で示されました。

ひとつ目は、「物理的限界」です。AIはソースコードの内側のロジックには強いものの、リソース競合や実行タイミングのずれといった、実機を動かして初めて表面化する物理挙動までは実証できません。たとえ論理的に正しいコードであっても、特定条件下で「キーの空振り」が起きることもあるため、AIには見えないメカニズムを疑う視点が重要になります。

ふたつ目は、「責任の限界」です。AIはコードを生成したり、テストケースを提案したりすることは得意ですが、その結果に責任を持つことはできません。文脈を理解し、意味のある検証を設計した上で、最終的に結果を解釈して「正しい」と判を押せるのは人間だけです。AIに作業を任せられる部分は増えても、品質に対する最終的な責任は手放さない。これが、これからのエンジニアに求められる向き合い方として紹介されました。

 

感覚とツールの精度を融合する「最強の判断スキル」

こうしたAIが自己完結できない領域を補うために必要となるのが、AIに正しい文脈を渡し、最終的な結果に責任を持つ「判断スキル」です。

このスキルとは、単に指示を出すことではありません。AIが苦手な物理現象やタイミングの不確実さといった「AIがカバーしきれない領域(境界)」を自分の中に地図として持ち、的確な着眼点を文脈としてAIに渡すことで、より精度の高い検証を引き出す能力を指します。

この境界を見極め、AIにできないことを人間が補うためには、2つのアプローチの使い分けが欠かせません。ツールを駆使して網羅的に確認する「機械的な手法」と、自身の直感や感覚を活かして微かな違和感を察知する「経験則による手法」です。 実機特有の挙動を予見し、現場で感じる「いつもと違う」という主観的な感覚を大切にする。それを、ツールの高い測定精度によって客観的なデータへと落とし込み、自身の感覚を裏付けていく。この「人間の感覚とツールの精度を組み合わせること」こそが、AI時代の現場を動かす最強の判断スキルなのです。

 

AI時代を生き抜く、本質を見極めるテストエンジニアの姿

セッションの締めくくりとして、AIと共に歩むこれからのテストエンジニアへ、力強いエールが送られました。

AIによって仕事がなくなるのではなく、AIに作業を任せられる分、人間は「本質的な判断」という最も重要な業務に集中できるようになります。AIや自動化ツールは私たちの「目の代わり」にはなってくれますが、結果が示す「本質を見極める目」までは代わってくれません。その目を持つエンジニアこそが、これからのAI時代の現場を力強く動かしていくのだという、前向きなメッセージとともに講演は締めくくられました。

 

まとめ

今回のセッションでお話ししたのは、「実機テストの自動化によるCI/CDの拡張」と「AI生成コードに対する物理的視点での検証」という2つの大きなテーマでした。

一見異なる内容ですが、共通してお伝えしたのは、「テスト自動化やAIは作業の代行はできるが、本質を見極める判断は人が行う必要がある」ということです。

ツールを使って物理的な操作や目視作業を自動化し、これまで回帰テストに費やしていた膨大な工数を削減すること。そして、その自動化によって生み出された貴重な時間を、AI生成コードの厳密な検証や、より高度な品質向上活動に充てること。こうした仕組みや視点の転換が、日々難易度が増していく組込み開発の現場で、皆様を支える一助となれば幸いです。

また、今回の講演でご紹介したAUTOmealのデモ動画も公開しております。組込み開発におけるテスト自動化の課題解決から、AUTOmealの概要、具体的な自動化の仕組み、さらには実際のテストシナリオのスクリプト化や実行・結果確認の様子までを詳しく解説しています。デモ動画は以下のリンクよりご視聴いただけますので、ご興味のある方は、ぜひこの機会にご活用ください。

【 無料でみられる! 】組込み開発向けテスト自動化プラットフォームAUTOmeal デモ動画

AUTOmealによる環境構築から実際の自動テストの様子まで、基本的な使い方をデモンストレーションいたします。ぜひ実動作をご覧いただき、その効果をご確認ください。