以前、DT10のオプションである「Multi Tracer」が誕生するまでの経緯を記事にした「Multi-Tracer 開発エピソード」を掲載いたしました。しばらく間が空いてしまいましたが、今回はその続編というかたちで、同じくDT10のハードウェアのオプションである「GPIO NoiseIsolator」をフォーカスしていきたいと思います。また、今さらながら、なぜ「GPIO NoiseIsolator」を改めて紹介するに至ったかの理由も併せてご紹介したいと思います。

異常なトレースデータの発生

お客様のところで、机上でターゲットとなる基板のみでDT10を動作させると問題なくトレースデータが取得できるが、その基板にコネクタを接続し実際の製品の使用環境に近い状態で動作させると、トレースデータにゴミデータが混ざり、正常なトレースデータが取得できないといった事象が発生しました。その時のトレースデータの端子の信号をオシロスコープで取ってみると、確かにノイズが載っていることが確認できました。図1は正常にトレースデータが取得できた時の構成、図2は異常なトレースデータを取得したときの構成のイメージとなります。基板単体で動かすときと装置を接続しているときで、波形に大きな差が出ています。

図1: 正常時の構成と計測波形イメージ

図2: 異常時の構成と計測波形イメージ

ノイズの要因

信号のリンギングであれば、Dynamic Tracerのにも対策が入っており、たとえDynamic Tracer側の対策で不十分であってもいくつかリンギングを抑える対応手段はありましたが、今回は勝手が違いどの対策手段も意味を成しておりませんでした。ハードウェアの根本的な対策が打てなかったため、Dynamic Tracerファームウェアを変更しソフトウェアによるノイズ除去も考えましたが、やはり小手先の対応は今はよくても後で後悔することは身に染みているので、ファームウェアでの対応は実施しませんでした。

根本対策を打つべく、今回のターゲット基板が接続されるお役様の装置内の環境や装備についてのヒアリングを実施しました。その結果、高電位のDCDCコンバータや電源制御を行っているということが分かりました。そこで、まず最初に今回のノイズの要因は、グランドループによるノイズと仮定し、それを実証するために図3のようなアイソレータICを使ってグランドを絶縁する子基板を作成し、お客様にお願いして再度トレースデータの取得を実施しました。

図3: アイソレータIC基板を介した接続

結果、正常にトレースデータの取得ができ実験は成功しました。もしかしたら、パワエレ関係に携わっている方なら当たり前のことかもしれませんが、我々にとっては、グランドの絶縁によるノイズ対策のありがたみを肌で実感した時間でもありました。

「GPIO NoiseIsolator」として製品化

今回、実験に使ったアイソレータICの載った子基板の製品化に踏み切りました。本来ならば、Dynamic Tracer側にアイソレータICを載せるのが筋ではありますが、QCDの面からDynamic Tracerに接続可能なオプションとして独立させるようにしました(図4)。また、オプションとして独立させることにより、Dynamic Tracerからの距離を取ってターゲット基板側と接続することができるため、取り回しやすい形態になっています。

図4: GPIO NoiseIsolator接続イメージ

自動テストシステムへのアイソレータICの適用

弊社では、DTシリーズ製品の開発・販売と並行して、これらのDTシリーズ製品の特長を活かした動的テストのテスト自動化環境構築サービスを行っております。特に、組込み機器のテスト自動化に特化したソリューションであるDT-ACE(Dynamic Test Automation environment Constructing solution for Embedded devices)では、組込み機器の基板に対する信号の入出力テストも対象としております。具体的には、テスト対象となる基板と専用ハードウェアを接続することで、テスト対象の基板に対して信号を出力することができ、同時に基板側が期待値通りの動きをしているかを自動でテストすることができるようになります。

このDT-ACEが提供する専用ハードウェアには、フォトカプラやデジタルアイソレータなどのアイソレータICが搭載され、テスト対象となる基板側とは絶縁され双方の影響を受けないように工夫がされています。このように、DTシリーズのハードウェアで培われた技術を即時に別の製品に活かせるのは、手前味噌ではありますが、弊社の強みなのかもしれません。

最後に

いかがでしたでしょうか?
最近では、おかげさまで組込み機器のテスト自動化ソリューションであるDT-ACEの引き合いを多くいただいております。その中で、双方の基板に影響を及ぼさない専用ハードウェアの設計が重要になってきていることもあり、アイソレータつながりで「GPIO NoiseIsolator」の開発エピソードを記事にさせていただきました。このところ、Dynamic TracerよりもDT-ACEの専用ハードウェアの方が技術的に先行していることが多いので、DTシリーズ製品のハードウェアにDT-ACEで培われたノウハウが活かされる日は近いかもしれません。次回にご期待ください。

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