近年、IoT向けの無線技術として、”LPWA”という言葉をよく聞くようになりました。実は、弊社でもLPWAの無線モジュールを開発中なのですが、今回はこのLPWAについて、いったいどのようなモノなのか?その種類や特徴について紹介します。

LPWAとは?

LPWAとは、[Low Power Wide Area] の略で、小さな電力で長距離の通信をおこなう無線技術の総称です。“無線”と聞くとまずはWi-Fiをイメージすると思いますが、これは2.4ギガヘルツや5ギガヘルツの周波数の電波を用いた通信になります。一般的に周波数が高くなるほど無線のデータを高速化できますが、その分、通信が届く距離は短くなってしまいます。(Wi-Fiの電波が十分に届くのは、たいてい1部屋くらいですよね?)
対して、LPWAの多くはWi-Fiよりも低い900メガヘルツ帯の周波数を利用することによって、長距離まで届く通信を可能としています。ただし、その分データの伝送速度は遅くなってしまうので、少量のデータのやり取りを行うシステムに向いた技術と言えます。

LPWAの種類

一口にLPWAと言っても、Sigfox(シグフォックス)、LoRa/LoRaWAN(ローラ/ローラワン)、ELTRES(エルトレス)、ZETA(ゼタ)、NB-IoT(Narrow Band IoT)、LTE-M等々、現状で様々な規格が存在します。何故LPWAは注目されているのか、まずはその特徴を理解するために、これらの規格を以下のように、[免許が必要な周波数帯を使用した規格] と、[免許不要な周波数帯を使用した規格]に分けてみます。

前者は既存の携帯電話の通信網を使用しており、一般的に[セルラー系LPWA]と呼ばれています。それに対して後者は、[非セルラー系LPWA]と呼ばれます。

電波と免許

ここで、『免許が必要な周波数?』と思われた方もいると思いますので、電波と免許について少し説明したいと思います。携帯電話など電波を使った製品は身近に多数ありますが、あまり知られていませんが、実は許可を受けずに電波を発信する事は電波法という法律で禁止されており、罰則規定(!)も存在します。
例えば、ある周波数の電波を勝手に発信するという事は、同じ周波数を使用した無線通信に悪影響を与えてしまう恐れがあるため、電波の使用は法律によって、周波数ごとの使用方法など厳格に定められています。また、電波を送受信する機器(無線局といいます)を設置、運用する場合は、基本的に免許が必要になります。

上の図は電波法で定められた各周波数帯の用途ですが、例えば800メガヘルツ付近の黄色の部分は携帯電話向けとなっています。ここは一昔前にプラチナバンドと呼ばれた周波数帯で、免許を交付された通信事業者だけが、この周波数の電波を利用して通信サービスを展開しています。
このように、任意の周波数の電波を利用するには、原則として国からの免許が必要なのですが、実は例外として免許を必要としない無線局を運用してよい周波数があります。これが上の図の900メガヘルツに割り当てられた赤の部分で、[特定小電力無線局]と呼ばれる機器向けの周波数帯です。運用に関しては電波の出力などに制限がありますが、この制限に適応した機器(いわゆる技適マークがついたもの)であれば、手続き不要で使用する事が可能です。

この、電波と免許の原則を前提として、[セルラー系LPWA]、[非セルラー系LPWA]を説明します。

セルラー系LPWA

セルラー系のLPWAにはNB-IoTやLTE-M等があります。これらは移動通信規格の標準化団体である3GPPによって策定された規格で、既存の携帯電話で運用されている免許の必要な周波数を使用しています。従って、基本的には大手の通信事業者によってサービスが提供されます。携帯の基地局を用いた通信網となりますので、非セルラー系に比べて広大なエリアを持ちます。また、サービスは高品質、高機能ですが、運用にはコストがかかります。

非セルラー系LPWA

非セルラー系のLPWAには、Sigfox、LoRa/LoRaWAN、ELTRES、ZETA等があります。それぞれ通信の仕様は異なりますが、どれも900メガヘルツ帯の電波を使用している点は共通しています。この周波数帯は免許不要で運用できるため、多くの規格で採用されています。運用コストはセルラー系に比べて抑えることが可能ですが、利用可能なエリアは限定され、品質も各規格を提供するサービス事業者によって左右されます。

以上から、昨今LPWAが注目されているのは、誰もが容易に導入できる[非セルラー系]の無線技術を用いた規格が多い事が大きな理由と言えそうです。

主なLPWAの特徴

ここで、900メガヘルツを利用した主なLPWAについて、それぞれどのような特徴があるのか、簡単にまとめてみました。

Sigfox

フランスのSigfox社が開発した無線ネットワークの通信規格で、詳細な仕様は非公開です。欧州を中心に45か国でサービスが展開されており、日本国内では京セラコミュニケーションシステム社が事業者となって、サービスの提供を行っています。ユーザーはSigfoxサービスエリア内にIoTデバイスを設置し、サーバーに情報を集約するアプリケーションを運用する事ができます。特徴はエリアの広さで、2020年までに国内の人口カバー率99パーセントを目指すと謳っています。

事業者 京セラコミュニケーションシステム
データレート 送信100bps / 受信600bps
エリア 事業者によって基地局が設置されている。全国でサービスエリアを展開中。
2020年までに人口カバー率99パーセントを目指している。
LoRa/LoRaWAN

LoRaとはLong Rangeの略で、米セムテック社が持つ無線の変調技術(※)の名称になります。LoRaWANは、この変調方式を採用した無線ネットワークの通信規格の名称で、LoRaアライアンスによって仕様が公開されています。LoRa/LoRaWANの特徴は自由度の高さで、誰もがLoRaWAN規格に沿ってネットワークを構築する事ができます。また、LoRa変調のみを使用し、その他は独自のプロトコルを用いたネットワークを独自に設計する事も可能です。
ゲートウェイとアプリケーションサーバを構築してLoRaWANサービスを提供している事業者も存在します。

※送信するデジタルデータに従って電波の振幅や位相、周波数を変化させる事

事業者 センスウェイ、SORACOMなど。
データレート 通信パラメータにより、任意で設定可能 (最大37.5kbps)
エリア ユーザーが独自にアクセスポイントを設置する事でエリアを構築する。
事業者が提供するエリアを利用する事も可能。
ELTRES

SONYが開発した無線ネットワークの通信規格で、詳細な仕様は非公開です。2019年9月から国内でサービスを開始したばかりです。特徴としては、送信機と受信機には必ずGNSSが装備されており、機器間で時間を同期させることで、見通し100km以上の伝送性能、時速100kmの高速移動体にも対応する等、高精度の通信を可能としています。

事業者 ソニーネットワークコミュニケーションズ / NECネッツアイ / オリックス
データレート 送信のみ80bps
エリア 事業者によって基地局が設置されている。現在は大都市圏でのみサービス展開中。
今後全国にエリアを展開予定。
ZETA

英国ZiFiSense社が開発した無線ネットワークの通信規格で、詳細な仕様は非公開です。現状では国内でZETAを用いたサービスを提供している事業者はありませんが、今後の広がりが期待されています。ZETAアライアンスを中心に、日本や東南アジア、中国での展開を進めているようです。特徴としては、中継器を用いた最大4ホップまでのマルチホップ通信やメッシュネットワークによる分散アクセス、双方向通信が可能である等、他のLPWAとは一線を画す興味深い機能を持っています。

事業者 国内では無し
データレート 300bps / 600bps / 2.4kbps
エリア ユーザーが独自にZETA AP(アクセスポイント)を入手、設置する事で、エリアを構築する。

このように、同じ周波数帯を使用しながら、それぞれが特徴を持っていることがわかります。

まとめ

LPWAについて概要を紹介いたしましたが、いかがでしたでしょうか? Wi-Fi等に比べると通信速度は劣りますが、消費電力の小ささや長距離の通信などの特徴は、アイディア次第で様々な用途に応用できそうです。
なお、弊社のLPWA無線モジュールは、LoRaによる独自の通信方式を採用しており、導入の手軽さとプライベートなシステム構築の自由度が特徴です。来春の発売に向けてこれから随時情報を発信していく予定ですので、ご興味がある方は是非ご連絡ください。

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