現代の組込みシステム開発は、ソフトウェアの複雑化と開発サイクルの短縮という二つの大きなプレッシャーに直面しています。従来の手作業を主体としたプロセスは限界を迎えており、品質とスピードのトレードオフはもはや許容されません。

実機を用いた検証が属人的な手作業から抜け出せない、あるいは環境構築の工数が膨らみ、品質維持と納期短縮の板挟みにあっている…。組込み開発の現場では、こうした状況が常態化しているケースも珍しくありません。このような状況において、エンジニアの工数を仕組みによっていかに改善し、本来の業務に集中できる環境を整えていくべきか。

本記事では、これらの課題を解決するための実践手法である「CT(継続的テスト)」の概念と、それを実機テストにまで広げ、全自動化によって効率化を実現するための具体的な手法についてご紹介します。

 

実機テストをめぐる現場の課題と「継続的テスト(CT)」の必要性

組込み開発、特に自動車や産業機器の分野では、ISO 26262やIEC 61508といった安全規格、またAUTOSARなどのコーディング規約への準拠が求められます。これらの高い品質要件を満たしながら、加速する開発スピードにも対応していく。そのための現実的な解決策となるのが、CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)の流れの中にCTを統合するアプローチです。

CTとは、開発初期から運用に至るまで、ソフトウェア開発ライフサイクル全体を通じて自動化されたテストを継続的に実行する手法です。組込みシステムにおいては、単体テストやシミュレーションだけでなく、実機を用いた結合テストやシステムテストといった後工程までを自動化の対象とすることで、開発スピードと製品品質の両立が可能になります。

 

不具合の修正コストを抑える「シフトレフト」

CTを導入する上で根底にある大切な考え方が「シフトレフト」です。これは、従来プロセスの終盤(右側)に集中していたテストを、設計やコーディングといった初期段階(左側)へ前倒しすることで、欠陥を早期に検出し、修正コストを最小限に抑える考え方を指します。

では、なぜこれほどまでに「前倒し」が重要視されているのでしょうか。その理由は、欠陥の検出が早ければ早いほど、プロジェクト全体の修正コストを劇的に抑制できる点にあります。不具合の修正にかかるコストは、発見が遅れるタイミングに比例して、増大していくからです。

シフトレフトによる不具合修正コストの増大と発見タイミングの相関図

「右側にあるテストを、いかに左側(早期)に近づけるか」。そのためには、実機が組み上がった後の「最終確認」としてテストを捉えるのではなく、開発サイクルの早い段階から日常的に、かつ自動で実機検証が回り続ける仕組みを整えることが欠かせません。こうした環境づくりこそが、品質と開発スピードを高い次元で両立させるための、誠実で合理的な戦略といえるでしょう。

 

実機テストの自動化を阻む「3つの壁」

品質とスピードを両立させる「シフトレフト」の重要性は、多くの現場で共有されています。しかし、いざ実機テストの自動化に踏み出そうとすると、組込み特有の制約が幾重にも重なり、分厚い「壁」となって立ちはだかるのが現実です。これらの課題は、開発全体の自動化を阻む「最後の手動工程」として現場に残り続け、完全な自動テストの実現を妨げる要因となってきました。

  • 実機ハードウェアへの依存
    組込み開発には実機ハードウェアが不可欠であり、純粋なソフトウェア開発のようにクラウドや仮想環境だけで完結させることが困難です。ターゲットとなるデバイスが現物として存在しなければ検証が行えないという物理的な制約が、自動化の柔軟性を奪っています。
  • 環境構築の複雑さ
    使用するツール、コンパイラ、デバッガなどのバージョン依存が非常に激しく、それらを開発者全員やテストサーバーで統一するだけでも多大な工数がかかります。「自分の環境では動くが、あっちの環境では動かない」といった再現性の欠如が、自動化パイプライン構築の大きな足かせとなります。
  • 物理的な操作の手間
    もっともアナログな課題が、ボタンの押下やLEDの点灯確認といった物理的な操作です。これまでは「人間がそこにいて、手で操作し、目で確認する」必要があったため、どれだけソフトウェア側を自動化しても、最後には人手を介さざるを得ませんでした。

自動化を進めようとしても、常にこれらの現実に直面し、半ば諦めのような感覚を持たれていた現場も多いのではないでしょうか。しかし、この「最後の手動工程」を放置することは、複雑化するシステムと加速する開発サイクルの板挟みの中で、いずれ品質とスピードのどちらかを犠牲にせざるを得ない状況を招いてしまいます。

 

実機CTを実現するための技術アーキテクチャ

実機テストの自動化を阻むこれらの課題を整理し、真の継続的テスト(CT)を実現するためには、ソフトウェア開発の利便性とハードウェア特有の制約を高度に結びつける仕組みが求められます。具体的には、環境の差異をなくす「実行環境の抽象化」と、人手による物理操作をデジタルに置き換える「信号制御の疑似化」。この二つのアプローチを組み合わせた技術アーキテクチャが必要となります。

 

Dockerによるビルド環境の抽象化

「環境構築の複雑さ」という悩みに対しては、実行環境を「コンテナ」という単位で管理する下層技術であるDockerを活用します。ビルド環境そのものをコンテナ化することで、プロジェクトに関わる誰もが、場所や端末を問わず「全く同じ環境」を即座に再現できるようになります。

Dockerfileからコンテナ化までのDockerを用いたビルド環境構築の流れ

具体的には、使用するコンパイラなどのツールのバージョンごとにDockerイメージをあらかじめ用意しておきます。そして、プロジェクトのJenkinsfile内で、どのバージョンのDockerイメージをビルドに使用するかを明示的に指定することで、個々の開発環境の差異に左右されない、揺らぎのないビルドプロセスを構築します。これにより、「環境構築の属人化」や「工数増大」という課題の根本的な解決が可能となります。

 

AUTOmealによる実機テスト自動化の実現

CI/CDパイプラインのようなソフトウェアの世界から、実機デバイスというハードウェアの世界を制御するためには、両者の間に橋渡し役が必要です。そこで、この役割を担うのが、テスト自動化プラットフォーム「AUTOmeal」です。

AUTOmealについて、さらに具体的に知りたい方は以下のリンクからご確認ください。

→ 組込み開発向けテスト自動化プラットフォーム AUTOmeal 製品詳細はこちら

AUTOmealは、テストシナリオに沿ってボタン押下を模したパルス信号や、センサー入力を模したアナログ信号などをテスト対象機器へ出力します。これにより、これまで人手で行っていた複雑な機器操作を疑似的に再現できるようになります。

AUTOmealがテスト信号を出力して実機操作を疑似再現する仕組みのイメージ図

さらにUART、CAN、Etherなどの主要な通信インターフェースにも対応しており、出力結果の計測や合否判定までを自動で行うため、実機テスト全体を人手に頼らず完結させることができます。AUTOmealをCI/CD/CTパイプラインに統合すれば、コードの変更から実機テストまでの全プロセスを完全自動化するワークフローが完成します。

コード変更から実機テスト結果出力までを完全自動化するCI/CDワークフロー図

このパイプラインが回り続けることで、エンジニアは「テストが終わるのを待つ時間」や「手動での再試験」から解放されます。

 

まとめ

実機テストの全自動化とCTの導入は、複雑化する組込み開発において品質を守りつつ開発を加速させるための、非常に現実的な手段の一つです。

物理的な制約や環境構築の複雑さという壁も、DockerやAUTOmealといった仕組みを組み合わせることで、一歩ずつ乗り越えていくことが可能です。日々の検証作業の中で感じている負担を、仕組みによって少しずつ軽減していく。本記事が、皆様の現場における環境改善の小さなヒントになれば幸いです。

この記事でもご紹介した弊社ツール「AUTOmeal」が具体的にどのように動くのか、以下のリンクからデモ動画をご覧いただけます。もしよろしければ、実際の動きをその目でぜひ確かめてみてください。

【 無料でみられる! 】組込み開発向けテスト自動化プラットフォームAUTOmeal デモ動画

AUTOmealによる環境構築から実際の自動テストの様子まで、基本的な使い方をデモンストレーションいたします。ぜひ実動作をご覧いただき、その効果をご確認ください。